2010年03月15日 09時05分
リスクマネジメント協会が日本企業に導入を呼びかけるエンタープライズリスクマネジメント。ERMのキーワードになるのが、リスクコントロールといっても過言ではありません。今日はリスクマネジメント協会公式サイトよりリスクマネジメント入門を一挙公開いたします!!
リスクマネジメント協会「プレゼンツリリース」
http://www.arm.gr.jp/index.html
◆「リスクマネジメント入門」
http://www.arm.gr.jp/rm_nyumon/index.html
【1.リスクマネジメントの意義】
・リスクマネジメントはなぜ必要なのか
リスクマネジメントについて書かれた本の多くは、「企業や特定の事業にかかわるリスクを分析し、そのリスクをどのように管理・制御すればよいのか」という点について、極めて詳細な観点から論じているのが一般 的です。さらに、それでもリスクを未然に防止できず、損失が現実化した場合に備え、どのような手法を講じて財務面 での準備をすべきかという点への言及が多いといえます。
したがって、リスクマネジメントは、第一に企業や特定の事業を行う場合に、その企業・事業の本来の目的である利潤追求を阻害し、むしろ損失に変えてしまう恐れのある不確実性(リスク)を分析、発見、評価し、どう管理・制御するのか、リスクは不確実性そのものであることから、事前に防ぐことができなかったリスクが現実化する可能性に備えて財務面 でどのように対処するのかという、いわゆるテクニカルな観点で意義づけることもできます。
しかし、リスクマネジメントの根本的な問題は、企業や事業に損失が発生した場合には、その企業が消滅する恐れがあること、事業が中断し、利潤を発生することすらなく損失を発生しつづける「無駄 な存在」になる可能性があることを、誰がどのように認識するのかという点にあると考えられます.
・リスクマネジャー不在の日本
「日本の企業には、欧米型のリスクマネジャーが存在していない」というのが、さまざまなリスクを対象とした保険商品を販売する保険会社をはじめとし、保険商品の販売仲介と保険契約者に対してリスクに関するコンサルティングを提供している保険ブローカーや代理店といった、いわゆる保険業界内部での定説となっています。昨今発生した東海村の核燃料の取扱ミスによる臨界事故は、巨大メディアの放つ電波にのって一夜のうちに世界中に報道され、リスクをビジネスとしているこれらの人々に衝撃を与え、改めて、「日本の社会でのリスク管理はどうなっているのか」という疑問を生む結果 になっています。また、過酸化水素を積んだタンクローリーの爆発事故や商工ローンを巡る事件では、社長自らが陣頭指揮を取っていたことも明らかにされています。企業活動の陣頭指揮を取る社長の本来の役割は、企業に「利潤をもたらすこと」にこそあれ、「損失を発生させる恐れを増幅し、損失発生を現実に生み出すこと」にはないはずです。これらの事故は、類稀な事件であったのかもしれません。しかし、経営としての基本的な姿勢を「リスク管理」においていなかった一例として捉えることができます。
・経営こそが元凶
リスクマネジメントが不在な日本で、テクニカルな観点からリスクマネジメント手法を実施することは、元来できない相談です。なぜなら、経営陣にその気のないことを、実務レベルでいくら推し進めようとしたところで、実務現場の担当者が評価される可能性がないわけですから、うまく行く訳がないのです。 要するに、企業や特定の事業におけるリスクマネジメントの基本は、経営トップがリスクマネジメントの意義を十分に理解することにあります。言い換えれば、リスクマネジメントを理解していない経営は、企業を潰す恐れのある存在であるということになります。そして、リスクマネジメントを理解しない経営陣は、即その座を降りるべきといえます。なぜなら、経営本来の目的である「利潤の確保」は、「損失発生の恐れ」を最大限排除して初めて実現することができるからです。
【2.リスクコントロールの意義】
・リスクコントロールはなぜ必要なのか
リスクコントロールとは、損失の発生を事前に防止し、また、仮に損失が発生したとしてもその拡大を押さえて、損失の規模を最小限にするための重要なリスクマネジメント手法として位 置づけられます。リスクコントロールは、テクニカルな観点や損失発生時期を基準に事前・事後といった考え方から、次のような手法に分類することができます。
1.リスクの回避
2.損失発生の予防・防止
3.損失の軽減
4.リスクの分散
5.契約によるリスクの移転
要するに、リスクコントロールは、第一義的には「不確実性によりもたらされる損失の発生を未然に防ぐ」という努力であり、仮に損失が発生した場合であっても「その損失の拡大・増殖をできるだけ押さえようとする努力」であるといえます。 企業は利益を実現するために構成された人の集団であり、事業は人の集団が特定の目的を実現し、利益を得ようとする行為であると意義づけることができます。仮に、損失発生の機会が利益を実現する過程に発生し、拡大・増殖をした場合には、利益実現の機会そのものが失われることになりかねません。リスクコントロールはこうした事態を未然に防止すること、それでも損失が発生した場合にできる限り最小限にその損失を押さえることを目的としています。
・リスクコントロールを実現するのは誰か
企業という人の集団活動の中で、損失発生を防止するのは誰でしょうか。いうまでもなく、その企業を構成する一人一人の構成員こそが、損失発生の機会を防止することができる人たちであるといえます。そして、これらの構成員に対する意識づけ、動機づけを行っていくのが、その集団を率いる指導的立場にある経営陣です。無論、経営陣の中で陣頭指揮を取る立場にある社長こそが企業活動において最終的な責任を負担するわけですから、リスクコントロールを実現する最終責任者も社長であるということができます。仮に、企業内にリスクマネジメント担当の役員を据えた機構づくりをした場合であっても、担当役員の助言に社長が耳を貸さないようであれば、リスクマネジメントを企業内で実現することは不可能なことです。
しかし一方で、「リスクを恐れていては、企業の成長を実現することができない」という考え方も存在しますが、リスクの存在を組織として認識した上でとる行動とリスクの存在自体を無視した行動とには大きな違いが発生してきます。すなわち、リスクを認識した行動には、企業組織に損失を発生させるような恐れを回避しようという意識が伴うことから、より慎重な行動が期待できることになるといえるでしょう。しかし、リスクを無視する場合には、損失回避に対する意識的な行動を期待することができないため、微細な事象が拡大・増殖し、甚大な損失に結びつく可能性を高めることになりかねません。すなわち、損失発生の可能性を軽視する姿勢を維持するような経営思想に裏づけられた組織には、リスクマネジメント思想そのものが育つ素地が存在しないといえます。したがって、企業組織内において最終的にリスクを制御・管理する責任者は、その組織のトップである社長であるといえるでしょう。社長の指示を受けた担当役員は、実務レベルにおける業務執行の責任者として組織全体でのリスクマネジメントの実現に努め、その結果 を社長を含めた取締役会に報告する義務を負うにすぎないといえるのです。
【3.リスクコントロールの基本】
・社員全員がリスクマネジャー
企業組織のトップである社長を含めた取締役会は、リスクが顕在化し、その結果 発生する損害により企業が財務面で損失を計上するような事態に陥った場合に、最終的な責任を負担しなければならない法的義務を負っています。しかし、日常的な現場の実務について具体的にどのようなことが行われているのかを細かく把握することを経営陣に求めることはできないでしょう。そこで、日々の実務に携わる一人一人の社員がリスクマネジメント思想の基本を学ぶ必要が出てきます。 現代の企業組織は、さまざまな分野で技術革新や情報等の専門化が急速に進んでいることから、日常的な業務の流れの中にも昨日までは存在しなかったリスクが紛れ込んできていることが多々あります。急激な社会環境や職場環境の変化に伴って発生してくるリスクは、実務の現場にいなければ、なかなか把握することはできません。
・中間管理職の役割
中間管理職は、企業規模の大小によっても定義が異なってくるものと思われますが、企業活動における最先端の実務現場での責任者ということができるでしょう。例えば、係長や課長といった立場の人たちがこれに該当すると考えられますが、最近は、チームリーダーといったタイトルを使う企業も増えてきています。無論、経営と実務現場を結ぶ部長職は、実務現場の最終責任者と位 置づけることができることから、ここまでの職位を実務現場としてひと括りにすることも可能でしょう。 リスクマネジメントを企業組織内で実現するための必須要件は、経営トップがリスクマネジメント思想をきちんと確立し、実現しようとする意欲を維持することに他なりませんが、「具体的に何をどうするのか」という点については、実務の現場で取り組むことが求められます。そこで実務の責任者である、いわゆる中間管理職の意識づけを行うことが肝心になってきます。
・リスクの洗い出しこそが基本
「リスクの洗い出し」という表現は、欧米型のリスクマネジメントでは、「リスクの発見、確認、分析、評価」と呼ばれているものです。「リスクを洗い出せ!」と日常的な実務の現場で言ったとしても、「リスク」についての一定の理解を実務担当者が持っていなければ、洗い出しようがありません。そこで、「リスクとは一体どのようなものなのか」という一応の定義を持つ必要があります。リスクマネジメントでは、リスクの定義を極めて抽象的に「不確実性」と呼んでいますが、それぞれの実務現場に適した、もっと噛み砕いた表現を使わなければ理解を得ることができないでしょう。例えば、
1.財務・経理等直接的に企業の資金を扱う部署では、企業に損失をもたらすような事故としてどのようなことが考えられるのか
2.システム等いわゆるITと呼ばれるデータ管理部門では、どのような事故が損失を発生することになるのか
3.製造部門では、製品の安全性についてどう対応しているのか
4.営業・販売部門では、取引先や消費者との関係でどうなのか
という観点に立脚し、実務担当者レベルで、まずは最も簡便な手法として「ブレーンズストーミング」を繰り返し実施することが必要になってきます。「ブレーンズストーミング」は、いわば、思いつきによる発言ですから、最初のアプローチでは箇条書き方式で発言をリスト化していくことが必要でしょう。リスクマネジメントでは、リスクの「発見・確認」という段階に当たることになります。次に管理職を中心として、そのリストの中に記載された個々の問題について価値判断を加え、分析・評価による絞り込みをしていくことになります。
【4.リスクコントロールの目的】
・コミュニケーションを拒否する組織
職場での上下関係や社長を含めた取締役間での地位 の上下に対するこだわりといった、自分の考えを自由闊達に発言することができない企業文化の中では、リスクマネジメントを実現することはできません。リスクマネジメントは、企業が自らの意思に基づいて、自社内に存在するかもしれないリスクに自己責任で積極的に対処し、将来にわたる組織としての存続の確保を目的とする経営手法に他なりません。ですから、組織そのものの硬直性や組織内の上下関係・人間関係といった問題は、リスクマネジメントを実現するに際して、障害そのものになる恐れがあります。こうした組織上の問題については、経営側が積極的に取り組む姿勢を示さなければ解決のしようがない問題でもあります。一般 社員に対して、組織上の問題を指摘させようとしても無理があるでしょうし、取締役会で、平取締役に対して組織上の問題を指摘することを求めたとしても積極的な発言を期待することはできないでしょう。一言でいえば、まず最初に、経営トップの姿勢を、勇気を持って変えなければならないのです。
損失が顕在化してからでは遅すぎるかつて日本の企業文化の中には、「失敗を隠す」という極めて特殊な異文化が存在していました。
しかし、近年、発覚した巨大官僚機構を巡る事件では、依然としてこうした考え方が日本型組織の中には根強く存在していることを明らかになりました。リスクコントロールは、事前に「失敗」という事故の発生を防止する努力そのものでもありますが、仮に、未然に防止できなかった場合であっても、ひとつの「失敗」がさらに拡大・増殖し、巨大機構そのものの存在を揺るがす事態にならないよう、最小限の損失にとどめるための努力でもあるのです。リスクコントロールを忘れた組織がどのような命運をたどるのかを示した典型的な一例でもあるでしょう。
一方、民間企業の場合には、官僚機構と異なって組織トップの首のすげ替えだけで、事件が終息することはないでしょう。最悪のシナリオは、企業そのものの消滅ということになります。社会的な指弾を加えてくる世論に対してだけでなく、民間企業には企業の所有者である株主が常に存在している可能性があるわけですから、積極的に事態の推移を開示するだけでなく、将来に向けた改善策を提示していかなければなりません。組織の存続をかけた局面 において、リスクコントロールを基本とする経営がその存在価値を発揮できるのかどうかが問われることになります。
・リスクコントロールに対する誤解
リスクコントロールを実施したからといって、損失発生の機会を皆無にすることはできません。なぜなら、「リスクは、不確実性そのものである」と定義をすることができるように、常に人の予測を超えたリスクが存在することを否定できないからです。特に、コンピュータの2000年問題に象徴されるように、昨日までは、疑いもしなかった技術が問題をはらんでいることが顕在化したり、現代社会では急速な技術の発展のもとで、新たなリスクも生み出されているからです。 リスクコントロールは、現在の時点で考えられる限りのリスクを洗い出し、そのリスクに対処しようとする手法です。したがって、新規なリスクや洗い出しから漏れてしまったリスク、気がつかなかったリスクについては、企業が無防備になる可能性を常に持っていることを認識すべきでしょう。
【5.人的要素とリスクコントロール】
・要するに「人」が全ての中心
社会に存在するリスクを概観すると
1.人間の故意・過失によるもの
2.自然災害によるもの
に大きく区分することができます。 また一企業組織についてこの2つのリスクが及ぼす影響を見てみると、
1.人的原因によるものは、発生頻度が比較的高く、発生する損害も企業の存続を脅かすような巨額なものに達する場合がある
2.自然災害には、台風や地震といった社会全体に大きな被害をもたらすものがあるが、一企業に及ぶ損害は、建築基準等の強化により比較的軽微な損害で収まる場合があるという特徴を持っているといえます。
例えば、工場火災により生産設備が一夜にして焼失してしまうというリスクは、メーカーにとって死活問題になるリスクです。しかし、火災事故の発生は、落雷や地震といった自然災害を原因とする場合よりも、タバコの火の不始末、配線コードの過熱、床に染みこんだ機械油への引火等いわゆる整理整頓(ハウスキーピング)を怠ったという人的な原因による場合のほうが多いといえます。
また、近年、企業に発生した巨大損失の中には、いわゆる金融派生商品での運用の失敗、製品の安全管理面 での甘さ等、企業内の人的な要素に起因する損失が多々含まれています。人的な原因で、発生する事故の中には、日常的に発生している自動車の運行に起因する交通 事故や製品の欠陥によるPL事故等も含まれます。こうした観点から見てみると、社会全体で発生している事故の大半が、人的要素によるものであることが理解できると思います。
・事故が少なければ損失も少なくなる
社会全体または一企業の中で発生する損失の額を、過去の統計的な数値に基づいて計算するために、次のような算式が用いられます。
一件当たりの平均損害額 X 事故発生件数 = 全体の損失額
したがって、全体の損失額を減少させるためには、「事故発生件数」を限りなくゼロに近づけるための努力が必要ということになります。だからこそ、「損失の原因となる事故の発生を防止することが求められるのです。一方、損失発生の原因となる事故は、常にある一定の確率で発生する」というのが定説でもあります。多数の人間が構成する集団の中では、一定の確率でミスが発生し、その結果 事故が発生し、損失に結びつくという考え方です。すなわち、この考え方を逆の角度から捉えると、ミスが発生する確率を低くし、一件当たりの平均損害額を低く押さえることができれば、全体の損失額も少なくできるということになります。
・人的要素の重要性
リスクコントロールを組織内で実現するために、組織を構成する一人一人の構成員が損失軽減に必要な努力、すなわちミスを少なくする努力から始める必要があります。だからといって、「ミスを許すな、ミ スは厳罰にする」といった考えを組織内に導入すれば、一人一人の活力を殺ぐ原因にもなりかねません。また、「ミスを隠す」ということにも結びつきかねません。そこで、社内のコミュニケーションがスムーズにできる体制を確立し、損失発生を極力未然に防止することが肝心です。 しかし、企業の存続を脅かすような損失が発生した場合には、一般社会の常識に基づいて組織内での公平性を維持することも必要とならざるを得えません。こうした事態が発生した場合には、経営責任を含めて、それぞれの職責を明確にすることが求めらことになるでしょう。
リスクマネジメント協会 Association of Risk Management Japan
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