学校法人近畿大学


アルマ望遠鏡でブラックホールジェットと星間ガスの衝突を観測 銀河の巨大ガス流出のメカニズム解明へ新たな一歩



図1. 重力レンズ効果を取り除いたMG J0414+0534の再現画像 オレンジ色はチリやジェットが出す電波の強さ、緑色は一酸化炭素ガスが出す電波の強さを表す。一番明るい場所にクエーサーがある。

図1. 重力レンズ効果を取り除いたMG J0414+0534の再現画像 オレンジ色はチリやジェットが出す電波の強さ、緑色は一酸化炭素ガスが出す電波の強さを表す。一番明るい場所にクエーサーがある。

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)教授 井上 開輝、中央研究院天文及天文物理研究所(台湾)研究員 松下 聡樹、国立天文台 特任准教授 中西 康一郎、東京大学大学院理学系研究科 准教授 峰崎 岳夫からなる研究チームは、チリ共和国に設置された世界最高の性能を誇る巨大電波干渉計「アルマ望遠鏡」※1 による観測で、地球から110億光年離れた銀河の中心にある超巨大ブラックホールから噴き出す超高速のガス流(ジェット)によって、銀河中の星間ガス雲が激しく揺さぶられる様子を、これまでにない高解像度で撮影することに成功しました。銀河の進化の初期段階においても、ジェットが銀河内のガスに大きな影響を与えていることが示されたことは、銀河の進化の過程を解明するための重要な一歩といえます。
本件に関する論文が、令和2年(2020年)3月27日(金)19:00(日本時間)、アメリカの天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」(インパクトファクター 8.374,2019)に掲載されました。

【本件のポイント】
●地球から遠く離れた、進化初期の銀河でのジェットと星間ガスの衝突を世界で初めて観測
●国際プロジェクトによる世界最大の電波干渉計「アルマ望遠鏡」で観測
●銀河の進化の過程を解明する重要な一歩に

【本件の内容】
ほとんどの銀河の中心には、巨大ブラックホールが存在しています。巨大ブラックホールのなかには、その周囲の物質が降り積もってできた円盤から強い光が放射されるもの(クエーサー)や、吸引した物質の一部を細く絞られた超高速のガス流(ジェット)として噴出しているものがあります。ジェットは銀河中の星と星の間にあるガスの雲(星間ガス雲)と衝突し、星の材料となる大量のガスを押し出すことで星の形成を抑制するなど、銀河の進化に大きな影響を与えると考えられています。しかし、ガス流出を引き起こす原因がジェットなのか、それともブラックホールを取り巻く円盤から放たれる強い光なのか、まだ分かっていません。比較的地球に近い銀河では、ジェットが星間ガス雲に衝突し、ガス流出を引き起こす様子がすでに観測されています。しかし、銀河進化の初期の様子を調べるためには遠くの銀河を観測する必要があり、従来の観測機器では解像度が足りず、鮮明な映像を捉えることはできませんでした。そこで研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、地球から遠く110億光年の距離にある天体を観測することにしました。観測対象は、クエーサーの1つ「MG J0414+0534」※2 (以下、「本クエーサー」)です。本クエーサーは、「重力レンズ効果」を受けている天体として知られています。重力レンズ効果とは、地球と光を放つ天体の間にある別の天体の重力がレンズの役割を果たし、天体が放つ光の経路が曲げられる、「天然の望遠鏡」というべき働きをする現象です。重力レンズ効果により、本クエーサーは4つの像として見えることに加え、個々の像も大きく拡大されて見えます。アルマ望遠鏡の性能に加え、重力レンズ効果の働きで、110億光年先にある本クエーサーの周囲の星間ガス雲の動きを高い解像度で観測することが可能になりました。その結果、本クエーサーの周辺では、ジェットに沿って星間ガス雲が秒速600kmにも達する速さで激しく運動していることが明らかになりました。110億光年もの遠方の銀河で、ジェットと星間ガス雲の衝突の現場が画像として見えてきたのは、これが初めてのことです。
今回の観測は、銀河の巨大ガス流出が引き起こされるメカニズムを解明する重要な手がかりとなります。

【論文掲載】
論文名 :ALMA 50-parsec resolution imaging of jet-ISM interaction in the lensed quasar MG J0414+0534
掲載誌 :The Astrophysical Journal Letters(インパクトファクター:8.374)
著  者:井上 開輝、松下 聡樹、中西 康一郎、峰崎 岳夫

【研究詳細】
今回の観測によって、研究チームはクエーサーMG J0414+0534の4つの像を高解像度で撮影することに成功しました(図2)。さらに、重力レンズの効果を精密に調べ、4つの像を用いて拡大される前の本来の天体の姿を再現しました。アルマ望遠鏡が今回達成した解像度は0.04秒角※3 程度でしたが、重力レンズによる拡大効果を合わせると、達成された解像度は約0.007秒角、すなわち視力9000に相当します。つまり、110億光年先にあるMG J0414+0534の周りを極めて高い解像度で分解して描き出していることになります。
導き出されたMG J0414+0534の姿は、クエーサーの中心部に非常に明るい電波源があり、その左右に一酸化炭素ガスが分布している、というものでした。また一酸化炭素分子が放つ電波を詳しく調べると、ジェット※4 に沿ってガスが秒速600kmにも達する速さで激しく運動していることが明らかになりました。これは、超巨大ブラックホールが放つジェットが周囲にある星間ガス雲と衝突し、そのガス雲が激しく揺さぶられていることを示している、と研究チームは考えています。110億光年という遠方のクエーサーの周辺で、ジェットと星間ガス雲の衝突の現場が画像として見えてきたのは、これが初めてのことです。
さらに注目すべきは、ジェットと星間ガス雲が衝突している領域の大きさが典型的な銀河の大きさに比べて大変小さいことでした。これは、ジェットが吹き出し始めて間もない、つまりジェットの誕生直後をみているのだと、研究チームは考えています。
これらのMG J0414+0534の観測的な特徴は、理論シミュレーションによって予言されていた、非常に若いジェットと相互作用する星間ガス雲の性質と良く一致していました。
なお、本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(No.17H02868,19K03937)、国立天文台ALMA共同科学研究事業2018-07A、台湾MoST 103-2112-M-001-032-MY3、106-2112-M-001-011、107-2119-M-001-020の支援を受けて行われました。

【用語解説】
※1 アルマ望遠鏡
東アジア・北米・ヨーロッパ・チリの諸国による国際プロジェクトによって、チリ共和国北部アタカ
マ砂漠の標高約5000メートルの高原に設置された干渉計方式の巨大電波望遠鏡。

※2 MG J0414+0534
MG J0414+0534は、地球からみるとおうし座の方向に位置しています。この天体の赤方偏移(光の波長の伸び率)はz=2.639です。これをもとにプランク衛星の観測から得られたパラメータを用いてMG J0414+0534が光を発したときの宇宙年齢を計算し、パラメータの不定性も考慮して、この記事では距離を110億光年としています。

※3 秒角
望遠鏡の解像度は、角度の単位で表現されます。1秒角は1度の3600分の1として定義されます。60秒角離れた2点を識別できる解像度が視力1.0に相当します。

※4 ジェット
研究チームは、より長い波長で観測されたジェット画像(Ros et al.2000,Trotter et al.2000)を用いて、重力レンズ効果で拡大される前の本来のジェット像を再現しました。

【関連リンク】
理工学部 理学科 教授 井上 開輝(イノウエ カイキ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/272-inoue-kaiki.html

近畿大学理工学部理学科 宇宙論研究室
https://www.cosmology.jp/

国立天文台ALMA
https://alma-telescope.jp/posttag/press-releases?post_type=post

東京大学大学院理学系研究科
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2020

中央研究院天文及天文物理研究所
https://sites.google.com/asiaa.sinica.edu.tw/newsite

関連URL:https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/


  • 図1. 重力レンズ効果を取り除いたMG J0414+0534の再現画像 オレンジ色はチリやジェットが出す電波の強さ、緑色は一酸化炭素ガスが出す電波の強さを表す。一番明るい場所にクエーサーがある。 図1. 重力レンズ効果を取り除いたMG J0414+0534の再現画像 オレンジ色はチリやジェットが出す電波の強さ、緑色は一酸化炭素ガスが出す電波の強さを表す。一番明るい場所にクエーサーがある。
  • 本文掲載図 本文掲載図


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